相続税申告では、被相続人の預金だけでなく、配偶者・子・孫など家族名義の預金についても確認が必要になることがあります。
特に問題になりやすいのが「名義預金」です。
名義預金とは、通帳や口座の名義は家族になっていても、実質的には亡くなった方の財産と判断される預金のことです。国税庁も、名義にかかわらず、被相続人が資金を出していたなど、被相続人の財産と認められるものは相続税の課税対象になると説明しています。
では、名義預金の確認のために過去の通帳を用意しようとしたところ、通帳を紛失していた場合はどうすればよいのでしょうか。
結論からいうと、通帳がなくても、銀行から「取引履歴」を取り寄せることで対応できます。
名義預金の確認では、過去の通帳が重要になる
相続税申告では、亡くなった日の預金残高だけを見ればよいわけではありません。
過去のお金の流れを確認する必要があります。
たとえば、次のような動きがあると、名義預金の確認が必要になります。
- 被相続人の口座から、子や孫の口座へ多額の送金がある
- 被相続人の口座から現金が引き出され、その後、家族名義の預金が増えている
- 家族名義の定期預金があるが、その原資が被相続人のお金である
- 子や孫はその預金の存在を知らなかった
- 通帳や印鑑を被相続人が管理していた
このような場合、口座の名義が子や孫であっても、実質的には亡くなった方の財産と判断されることがあります。
そのため、相続税申告では、被相続人本人の通帳だけでなく、家族名義の預金についても、過去の入出金を確認することが大切です。
過去の通帳を紛失していても、すぐに諦める必要はない
過去の通帳を紛失している場合でも、相続税申告ができなくなるわけではありません。
通帳がない場合は、金融機関に依頼して、過去の取引履歴を取り寄せます。
取引履歴には、通常、次のような内容が記載されます。
- 入金日
- 出金日
- 金額
- 振込先・振込元
- 摘要
- 残高
つまり、紙の通帳がなくても、銀行が発行する取引履歴を見れば、過去のお金の流れを確認できます。
ゆうちょ銀行でも、窓口で過去10年以内の入出金照会が可能と案内されています。取引履歴の開示請求手続きも用意されています。
まず行うべきこと
過去の通帳を紛失した場合は、次の順番で対応します。
1. どこの金融機関に口座があったか確認する
まず、被相続人や家族名義の口座が、どこの銀行・信用金庫・農協・ゆうちょ銀行にあるかを確認します。
確認方法としては、次のようなものがあります。
- 現在残っている通帳を見る
- キャッシュカードを見る
- 郵便物を見る
- 生命保険料や公共料金の引落口座を見る
- 証券会社の入出金口座を見る
- 年金の振込口座を見る
- 確定申告書の還付口座を見る
古い通帳がなくても、現在の通帳、郵便物、カード、保険関係書類などから金融機関を特定できることがあります。
2. 銀行に取引履歴を請求する
金融機関が分かったら、銀行に取引履歴を請求します。
相続人が被相続人の口座について請求する場合、一般的には次のような書類を求められます。
- 被相続人が亡くなったことが分かる戸籍
- 請求者が相続人であることが分かる戸籍
- 請求者の本人確認書類
- 印鑑
- 金融機関所定の請求書
必要書類は金融機関によって異なりますので、事前に銀行へ確認してください。
また、家族名義の預金について取引履歴を取得する場合は、その口座名義人本人から請求してもらうか、委任状を用意する必要があります。
3. できれば10年分を目安に確認する
実務上、相続税申告では、少なくとも相続開始前数年分の預金の動きを確認します。
名義預金が疑われる場合や、多額の資金移動がある場合には、さらに長期間の確認が必要になります。
実務上は、できれば過去10年分程度の取引履歴を確認しておくと安心です。
ただし、金融機関によって取得できる期間や手数料は異なります。
ゆうちょ銀行では、窓口での入出金照会について「過去10年以内」と案内されており、取引履歴の開示請求では手数料も定められています。
10年より前の通帳を紛失している場合
問題は、10年より前の通帳を紛失している場合です。
金融機関によっては、古い取引履歴を取得できないことがあります。
その場合は、完全な資料を用意できないからといって、何もしなくてよいわけではありません。
次のような資料を集めて、できる限り事実関係を整理します。
- 残っている通帳
- 定期預金証書
- 贈与契約書
- 贈与税申告書
- 過去の相続税申告書
- 確定申告書
- 生命保険の契約書
- 証券会社の取引報告書
- 不動産売却資料
- 退職金の資料
- メモや家計簿
- 親族の説明書
大切なのは、資料がない部分についても、分かる範囲で合理的に説明できるようにしておくことです。
取引履歴を取り寄せた後に確認するポイント
取引履歴を取り寄せたら、次の点を確認します。
1. 多額の出金がないか
被相続人の口座から多額の現金引き出しがある場合、そのお金がどこへ行ったのかを確認します。
たとえば、次のような出金です。
- 100万円単位の現金出金
- 定期預金の解約
- 家族への振込
- 使途不明の出金
生活費、医療費、施設費、住宅修繕費など、使い道が説明できるものは問題になりにくいです。
一方で、使途が説明できず、その後に家族名義の預金が増えている場合は、名義預金を疑われる可能性があります。
2. 家族名義の口座に入金されていないか
被相続人の口座から出金されたお金が、配偶者・子・孫の口座に入っていないかを確認します。
特に、次のようなケースは注意が必要です。
- 被相続人の口座から子名義の定期預金に入金されている
- 孫名義の口座に毎年入金されている
- 専業主婦の配偶者名義の預金が大きく増えている
- 収入のない家族名義で多額の預金がある
名義人に十分な収入がない場合、その預金の原資がどこから来たのかが問題になります。
3. 贈与が成立していたか
親から子へお金を渡していても、必ず贈与になるわけではありません。
贈与が成立していたといえるためには、少なくとも次のような事情が必要です。
- あげる人ともらう人の合意がある
- もらった人がそのお金を認識している
- もらった人が通帳や印鑑を管理している
- もらった人が自由に使える状態になっている
- 必要に応じて贈与契約書や贈与税申告がある
単に子や孫の名義で預金を作っただけで、本人が知らず、通帳も印鑑も親が管理していた場合は、名義預金と判断される可能性があります。
通帳を紛失した場合にやってはいけないこと
過去の通帳がない場合でも、次のような対応は避けるべきです。
「通帳がないので分かりません」で終わらせる
通帳がないから確認できない、という説明だけでは不十分です。
銀行から取引履歴を取り寄せることができる場合があります。
税務署側も金融機関への照会を行うことがありますので、相続人側でも可能な限り確認しておくべきです。
家族名義だから相続財産に入れない
口座の名義が子や孫であることだけを理由に、相続財産から除外するのは危険です。
国税庁の資料でも、名義にかかわらず、被相続人が資金を拠出していたなど、被相続人の財産と認められるものは相続税の課税対象になるとされています。
古い話だから問題ないと判断する
名義預金は、単なる生前贈与加算の問題とは違います。
何年前に作られた預金であっても、実質的に被相続人の財産であれば、相続開始時点の財産として相続税の対象になる可能性があります。
そのため、「昔の預金だから関係ない」と安易に判断しないことが大切です。
まとめ
過去の通帳を紛失していても、名義預金の確認を諦める必要はありません。
まずは金融機関に取引履歴を請求します。
通帳そのものがなくても、取引履歴を取得すれば、過去のお金の流れを確認できます。
特に相続税申告では、次の点が重要です。
- 被相続人の口座から多額の出金がないか
- 家族名義の口座に資金が移っていないか
- その預金の原資は誰のお金か
- 通帳や印鑑を誰が管理していたか
- 贈与が成立していたといえるか
名義預金は、相続税の税務調査で問題になりやすい項目です。
過去の通帳が見つからない場合でも、銀行の取引履歴、贈与契約書、贈与税申告書、保険資料、証券資料などを集め、できる限り事実関係を整理しておくことが大切です。
