相続税申告における名義預金とは
相続税の申告において、実務上しばしば問題となるのが「名義預金」です。
たとえば、預金口座の名義が配偶者やお子様、お孫様になっていたとしても、実際には被相続人が資金を拠出し、管理し、自由に処分していたのであれば、その預金は相続税の対象となる可能性があります。
この点については、過去の裁判例においても、単に「誰の名義になっているか」だけではなく、その預金が実質的に誰に帰属していたのかが重視されています。
裁判例上、重視されやすい主なポイント
- 預金の原資を実際に出したのは誰か
- 通帳・印鑑・キャッシュカードを管理していたのは誰か
- 預金の払戻しや運用を誰の判断で行っていたか
- 名義人本人が預金の存在を認識していたか
- 名義人本人が自由に使える状態にあったか
- 贈与として実際に成立していたといえるか
名義預金に関する主な裁判例
1.東京地裁平成20年10月17日判決
この事案では、配偶者名義の預金等が、相続税の対象となる被相続人財産に当たるかどうかが争点となりました。
裁判所は、預金の帰属については、単に名義だけで判断するのではなく、次のような事情を総合的に考慮すべきであると示しています。
- 原資の出捐者
- 預金の管理・運用の状況
- 利益の帰属状況
- 被相続人と名義人との関係
- その名義で預金が作られた経緯
すなわち、裁判所は、「形式」ではなく「実質」に着目して判断する姿勢を明確にしています。
2.大阪高裁平成27年3月13日判決
この事案では、お子様名義の預金が被相続人に帰属するかが争われました。
裁判所は、預金の原資が被相続人から出されており、被相続人が実質的に口座を管理・運用していたと認められる以上、その預金は被相続人に帰属すると判断しました。
また、名義人側が「これは贈与である」と主張したとしても、贈与契約の成立や、名義人への実質的な支配移転を裏付ける事情が乏しい場合には、贈与として認められにくいことが示されています。
3.大阪高裁平成27年判決
同じく家族名義の財産が問題となった事案において、裁判所は、名義人が自由に処分できる立場になく、被相続人の意向に従うほかなかったような事情を重視しました。
その結果、名義人に真に財産が移転したとはいえず、贈与の成立を認めることは困難であると判断されています。
この裁判例からは、名義人が自由に使えたかどうかが極めて重要であることがうかがえます。
4.相続開始前の預金移動・現金化をめぐる裁判例
相続開始直前に預金を引き出したり、他人名義に移したりすることで、形式上の残高を減少させる事例もあります。
このような場合でも、実質的に見て被相続人の財産がそのまま形を変えて存在しているにすぎないと判断されれば、相続財産として把握される可能性があります。
したがって、相続開始前の預金移動があった場合には、その理由や資金の行方について、特に慎重な確認が必要です。
裁判例から見える実務上の注意点
これらの裁判例から、名義預金に関しては次のように整理することができます。
実務上の要点
- 預金の名義だけで判断してはならない
- 実際の原資負担者・管理者・処分権者を確認する
- 贈与を主張する場合には、贈与契約の存在だけでなく、支配の移転まで確認する
- 通帳・印鑑・キャッシュカードの保管状況は重要な判断資料になる
- 相続開始前の預金移動も、実質的に相続財産と評価されることがある
税理士実務における確認ポイント
相続税申告にあたっては、名義預金の有無を確認するため、少なくとも次のような点を丁寧に確認しておくことが望ましいと考えられます。
- 口座開設の経緯
- 預金原資の出所
- 通帳・届出印・キャッシュカードの保管者
- 払戻しや振替の判断主体
- 名義人本人の認識と利用実態
- 贈与契約書の有無
- 贈与税申告の有無
名義預金の論点は、単に預金の名義を確認するだけでは不十分であり、「真にその財産が誰に帰属していたのか」を丁寧に見極めることが重要です。
まとめ
名義預金に関する裁判例では、一貫して「形式より実質」という考え方が採られています。
すなわち、配偶者や子の名義になっていたとしても、実際には被相続人が資金を拠出し、管理し、自由に処分していたのであれば、相続税申告上は被相続人の財産として取り扱われる可能性が高くなります。
一方で、真に贈与が成立しており、名義人本人がその預金を認識し、自由に支配・処分していたといえるのであれば、直ちに名義預金とはいえない場合もあります。
相続税申告に際しては、預金の名義だけで判断することなく、預金の形成経緯や管理状況を含めて、慎重に検討することが大切です。
税理士 舩橋信治
