はじめに
子・孫の結婚・子育てを応援したいと考える親・祖父母にとって、まとまった資金を一括で贈与でき、かつ一定の条件を満たせば贈与税が非課税となる制度があります。
本稿では、税理士としてクライアントに説明・提案する際に押さえておきたい「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」(以下「本制度」)について、制度概要、適用要件、手続き、留意点を整理します。
制度概要
本制度は、親・祖父母など直系尊属が、子・孫等(受贈者)に対して、結婚・子育てにかかる資金を一括して贈与した場合に、一定の要件のもと、贈与税の課税を免除する制度です。
平成27年度の税制改正により創設され、所定の手続を行った上で、最大受贈者1人あたり1,000万円まで(うち結婚資金部分300万円まで)非課税となります。
金融機関で「専用口座」を開設し、贈与契約→預入→用途に応じた出金・支払という流れに則る必要があります。
制度適用期限や要件などは税制改正により延長・見直しが行われていますので、最新の税制上の位置づけを確認することが重要です。
適用要件(受贈者・贈与者・資金の性質)
以下、税理士視点で押さえるべき要件を整理します。
1.贈与者と受贈者の関係
- 贈与者:受贈者の直系尊属(父母・祖父母・曾祖父母等)である個人。
- 受贈者:子・孫等の直系卑属である個人。受贈者が適用年齢に達していることが要件。
→ 原則18歳以上50歳未満の者(贈与を受ける年の年齢)とされています。 - 受贈者の前年の合計所得金額が 1,000万円を超えていないこと が適用要件とされています。
2.贈与資金と用途
- 非課税となるのは、「結婚又は子育てのために支払われる費用」に充てる金銭等であって、専用口座を通じて管理されること。
- 非課税限度額:受贈者1人あたり、最大1,000万円まで。うち「結婚のための費用」部分については上限300万円。
- 「子育てのための費用」部分については、1,000万円から結婚のための300万円を控除した残額を使うことが可能(つまり子育て資金に多く振ることも可)という理解です。
- 注意点として、結婚に関連する費用でも「婚約指輪」「新婚旅行」「結婚情報サービスの利用料」等、制度上対象外とされている費用があるため、用途について厳格な確認が必要です。
3.適用期限・口座等
- 口座を開設し、贈与契約日、預入日等要件を満たすことが必要です。
- 適用期限については、例えば令和7年3月31日までの契約・預入等をもって適用という記載がある資料があります。
手続の流れ(税理士が支援すべきポイント)
税理士としてクライアントに助言・手続支援を行う際には、次の流れを押さえておくと良いでしょう。
- 贈与者・受贈者の関係を確認(直系尊属かどうか、年齢・所得要件)
- 専用口座を開設する金融機関の選定(支店・営業所等)・契約書の締結。金融機関の預金商品等を活用するケースも多い。
- 贈与契約書等を作成・締結。贈与を受ける年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円以下であることを確認する書類の準備。
- 受贈者名義の「専用口座」への預入(贈与者が直系尊属であること、金銭等であること)
- 使用時:結婚・子育て資金として支払った領収書等を保管・口座からの払出を実施
- 用途が制度対象となることを確認(領収書の日付・支払先・内容)
- 契約終了・残額がある場合の処理(例:受贈者が50歳に到達・口座終了・贈与者死亡など) ⇒ 残額に贈与税・相続税が課される可能性あり。
- 税務署提出:受贈者は「結婚・子育て資金非課税申告書」を、契約金融機関を通じて所轄税務署へ提出。
留意点・税理士として確認すべきポイント
クライアントに対して説明・確認しておくべき留意点を整理します。
- 用途の確実性:制度適用を受けるためには、「結婚・子育てのための支払」に充てることが前提です。用途が制度対象外とされるもの(例:婚約指輪、新婚旅行、親族の交通宿泊費、家具・家電)を支払った場合、非課税適用が否定されうるので注意が必要です。
- 残額がある場合の課税リスク:契約終了時や受贈者が50歳に達した時点で残額がある場合、残額について贈与税や相続税が課される可能性があります。さらに、贈与者が死亡した場合、口座に残った金額は相続税の課税対象とされることがあります。
- 受贈者の所得要件:「前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合には適用できない」という要件がある点を確認します。
- 契約・預入期限:制度が時限措置であるため、口座の開設・預入・申告書提出等の期限を確認する必要があります。将来延長される可能性がありますが、現時点での期限をクライアントに周知しておくことが重要です。
- 他制度との関係:例えば「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税制度」など、類似制度との関係・重複適用・優先順位の確認が必要です。
- 金融機関との契約・口座管理:信託受益権の方式をとるケースもあるため、契約書・預入先・口座管理方法の精査が必要です。金融機関側で「結婚・子育て資金贈与非課税口座」等の商品を設けているケースもあります。
- 相続時の留意点:受贈者あるいは贈与者が死亡した場合の税務上の影響(相続税の課税対象になる可能性・2割加算の対象となる可能性等)もチェックが必要です。
事例紹介(簡易)
例:Aさん(父)→Bさん(子・30歳・前年所得900万円)に対して、結婚及びその後の育児資金として800万円を贈与。Bさんは金融機関で専用口座を開設し、300万円を結婚関連費用に、残額500万円を子育て費用に充当。用途が適格であるため、贈与税非課税。なお、Bさんが50歳に到達するまでに全額を使っていなかった残額があった場合、その残額に対して贈与税・相続税の課税が生じる可能性あり。
まとめ
- 本制度は、親・祖父母等が子・孫の結婚・子育てを経済的に支援するため、贈与税を非課税とするメリットのある制度です。
- 税理士としては、贈与者・受贈者の条件、用途の適格性、手続・期限、残額の処理等についてクライアントに対して明確に確認・説明を行うことが重要です。
- また、将来の税制変更・制度期限・口座管理・相続時の影響なども含めて「贈与から将来の相続までを見据えた支援」を提供できると、付加価値の高い顧問サービスとなるでしょう。
- クライアントにとっては、制度を活用した生前贈与による相続対策という側面もありますが、同時に「使途管理」「残額のリスク」「手続的な漏れ」による逆リスクも存在します。そこを税理士としてフォローできることが強みです。
